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北海道大学高等教育研究部

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どのようにして問いを評価するか?〜その1〜SV背景画像
研究部ノート

どのようにして問いを評価するか?〜その1〜

高等教育研究部 教授 池田文人

2001年4月に本学に転職する前は、(株)NTTデータで研究開発を行っていました。転職する直前に行なっていた仕事は、社内のヘルプデスクシステムの改善です。ヘルプデスクシステムとは、システムエンジニアが抱えるトラブルの解決を、専門知識をもった人たちが助ける仕組みです。トラブルを抱えたシステムエンジニアはメールでヘルプデスクへ質問を送り、ヘルプデスクからメールで回答が提示されます。回答を得たシステムエンジニアはその回答が役に立ったかどうかを評価し、質問と回答とともにデータベースに登録されます。このデータベースは、トラブルを抱えた他のシステムエンジニアが検索・参照できます。当時、約3、000件のQ&Aデータが回答の評価とともにこのデータベースに登録されていましたが、約3割の回答が「役に立たない」と評価されていました。私のミッションはこの役に立たない回答を減らすことでした。

まず私は、「役に立つ」と評価された回答と「役に立たない」と評価された回答の差異を調べました。しかし、両者には、質的にも量的にも有意な差異はありませんでした。そこでそれらの元になった質問を調べたところ、「役に立つ」回答を得た「良い質問」と「役に立たない」回答しか得られなかった「悪い質問」とには有意な差異がありました。質問は大きく、以下の3つパートから構成されています。一つ目は、トラブルが生じたシステムの基本的な情報で、通信環境やOS、ミドルウェアやアプリケーションの種類などの記述です。二つ目は、トラブルが生じるに至った経緯に関する背景情報です。そして三つ目がトラブル状況そのものに関する記述です。良い質問と悪い質問とで有意な差が見られたのは、背景情報とトラブル状況の記述量です。良い質問は悪い質問よりも背景情報が有意に多く、逆に悪い質問は良い質問よりもトラブル状況が有意に多かったのです。また、良い質問は悪い質問よりも、有意に早く回答が得られていました。さらに、検索・参照された際にも、良い質問とその回答は、悪い回答とその質問よりも、「役に立つ」と評価される比率が高かったのです。つまり質問の良し悪しが、組織全体の生産性を左右することになります。

なぜシステムエンジニアは背景情報よりもトラブル状況ばかり書いてしまうのでしょうか?同じように見えるトラブルでも、その原因としては様々な仮説が考えられます。適切な原因をヘルプデスクの人たちが迅速に見つけるためには、トラブルが生じるに至った背景情報が重要です。しかし悪い質問をしてしまったシステムエンジニアは、トラブル解決を焦るあまり、トラブル状況を伝えることしか意識が向いていませんでした。

このことを知った時、私は、社会に出たらこれほどまでに大切な質問の仕方を、なぜ私たちは長い教育を通じて学んでこないのだろうか?と疑問に思いました。そもそもテストや面接試験では、受験者に質問(問題)が提示され、受験者はそれに対して解答(回答)し、その解答(回答)の良し悪しが評価されます。これを逆にして、提示された何らかの情報や知識に対して、受験者が質問を挙げ、その質問を評価するテストが作れれば、問う力を伸ばす教育を実現できるのではないか?と考えました。日本の教育は大学入試に大きな影響を受けているので、大学入試を変えよう!と思い、このヘルプデスクシステムの分析に関する研究で学位を取得した後、当時設立されたばかりの、入学者選抜企画研究部(現在は高等教育研究部に一本化されています)に転職しました。それは、それから20年に渡る苦難の幕開けでした。(つづく)

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