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北海道大学高等教育研究部

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研究部ノート

大学での学びをデザインする

高等教育研究部 准教授 石川奈保子

今年も大学入試シーズン本番となりました。入学前から大学で何をするかの明確なビジョンがある人がいる一方で、入学後も自分が何をしたいのかよくわからない人もいるでしょう。大学では学部ごとに必修科目はありますが、それ以外は自分で自分の学びをデザインする必要があります。今回の研究部ノートには、私の専門領域である「インストラクショナルデザイン」の考え方を使って、大学での学びのデザインについて書いてみようと思います。

インストラクショナルデザインは、何かをうまく教えるための技術と科学(向後 2015)であり、教育を中心とした学びの「効果・効率・魅力」の向上を目指した手法の総称(鈴木ほか 2016)です。「教える」場面のデザインについての学問なのですが、教えることと学ぶことは表裏一体ともいえます。

インストラクショナルデザインでは、何かを教える場面をデザインするとき、最初にニーズ分析とゴール分析をします。ニーズ分析は、学ぶニーズがあるか、あるならどのようなニーズかを検討するものです。ニーズとは、「こうなりたい!」という理想の姿と「ここまでならできる」という現状の姿のギャップのことです。ニーズが決まれば、ゴールが決まります。ゴールとは、最終的に何ができるようになるかを記述したものです。そして、ゴール分析は、そのゴールを達成するためにどのようなステップを踏んでいけばよいかを分析することです。

これを大学での学びのデザインに応用してみましょう。「こうなりたい!」という理想の姿として、「大学卒業後に北海道で観光に関わる仕事をしたい」というのを例にしてみます。現状の姿が「家族とあちこち行ったので、北海道のことをいろいろ知っている」なら、「知っているといっても表面的かもしれない」「海外の人にも楽しんでもらえるよう語学が必要だよね」「そもそも『観光』って何だ?」のようにさまざまなニーズが出てきます。そうすると、ゴールは「大学卒業までに北海道や観光についてもっと知って、語学も堪能になる」と定まります。

4年間で何をしたらいいか考えてみると、「夏休みに北海道1周旅行してみよう」「英語の資格も取ろう」「観光に関連する授業を取ろう」といったことが出てくるかもしれません。「夏休みに北海道1周旅行してみよう」をもっと細かいステップに分ければ、事前準備として「北海道の地理や気候を知る」「安全に旅行する方法を知る」、実行中には「各地の名所・名物を体験する」など階層的にたくさんのステップが出てくるでしょう。

このように自分のニーズ分析とゴール分析をしていくと、自分がやりたいこと、学びたいことが意外とたくさん出てきます。あとは決心して行動に移すだけです。もっとやりたいことが出てきたら、またそれについてのニーズ分析とゴール分析をすればいいでしょう。大学の4年間(あるいは6年間)は思いのほか長いけれど、あっという間です。学生の皆さんには自分の学びを自分の手でデザインし、大学での日々を楽しく過ごしてもらえたら嬉しいです。

インストラクショナルデザインに興味を持たれた方への入門書としては、下記の書籍がおすすめです。

向後 千春(2015).上手な教え方の教科書-入門インストラクショナルデザイン- 技術評論社

鈴木 克明(監修)・市川 尚・根本 淳子(編著)(2016).インストラクショナル・デザインの道具箱101  北大路書房

鈴木 克明・美馬 のゆり(編著)(2018).学習設計マニュアルー「おとな」になるためのインストラクショナルデザインー 北大路書房

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