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北海道大学高等教育研究部

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研究部ノート

アントワープ大学での共同研究の経験

高等教育研究部 助教 田中孝平

私は、7月にこのサイトで自己紹介をしたときに、「国際化を目指す日本有数の研究環境である北海道大学において、発展的な研究ができることの喜びを感じつつ、国際的な共同研究を進展させ、新たな高大接続や移行支援のあり方を探っていければと思っています」と綴りました。早くもそのチャンスが巡ってきたのでした。私は、2025年1月末から3月上旬まで、ベルギーにあるアントワープ大学で在外研究員として滞在し、研究を遂行しました。今回の訪問では、当初、現在取り組んでいる研究課題の1つである「大学教育における移行概念についての理論的検討」をすすめるために、移行研究の先駆的な研究者であるVincent Donche氏が「高等教育への移行(transition in Higher Education)」をどのようなものとして捉えているのかを聞き取り、文献ではわからない情報を得ることを主な目的としていました。

一方で、Vincent氏との議論を繰り返していくうちに、日本とベルギーという2つの国の間には類似の特徴がみられるということも確認できました。その1つとして、初めて高等教育へ進学する学生の年齢的多様性の低さ、すなわち高校を卒業してすぐに高等教育へアクセスする割合が高いことが挙げられます。一般に、イギリスなどのヨーロッパ諸国では、中等教育終了後に「ギャップイヤー」と呼ばれる時間を過ごして自分の進路を考えたり、いったん労働市場に出てから高等教育へアクセスしたりする学生がいるなど、慣習として中等教育終了後の移行は直線的・均一的ではないケースがしばしばみられます。それに対して、ベルギーはそうしたヨーロッパ諸国とは異なる特徴をもっており、むしろ日本の状況に近いというのは興味深いところです。

もちろん、共通点だけでなく違いもあります。大きな違いとしては、ベルギーの大学入試は日本の大学入試とは異なり、フリーアクセス型、すなわち高等教育への進学を希望する者は原則全員が進学できるという制度をとっています。そのため、大学初年次における学生の能力には大きな差があり、その結果として多数の中退者を生んでいるという報告もあります(初年次学生向けの授業では、レベル感を考えることが本当に難しいとVincent氏も語ります)。

制度上の違いがありながらも、比較的年齢層の近い両国の学生がどんなふうに高等教育への移行を経験しており、初年次で学んでいるのかを比較分析することによって、同一の年齢層だからこそ生じる固有の課題、各国の特別な事情によって生じている課題に分けて明らかにできるのではないか、と考えを膨らませました。今回は、短い滞在となってしまったにも関わらず、Vincent氏は研究討議の時間を数多く設定してださり、「午後の研究はまず美味しいコーヒーから始まるんだ!」とコーヒースタンドに連れて行ってくれたことが何度もありました。ランチやディナーもご一緒させてもらったり、帰国前にたくさんのベルギーチョコレートをいただいたりもしました。心から尊敬できる第一線の研究者と出会えたことを嬉しく思いますし、何より深く感謝しています。

ポテト王国であるベルギーと並んでじゃがいもが有名な北海道。今度はVincent氏を北海道にお招きして、私たちの国際比較研究の成果を披露する機会をもちたいと思っています。両国の学生が「学びと成長」をより実感できる高等教育へと再創造するために、日々研究を続けていきます。

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