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北海道大学高等教育研究部

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研究部ノート

統計・測定よもやま話(1) -試験と誤差-

高等教育研究部 准教授 岩間徳兼

この場を借りて、私が専門としてきた心理統計学や教育測定学(平たく言えば、好みや態度などの心理特性や能力や学力などの教育に関わる特性について統計学に基づく方法で把握したり測定したりする学問)に関することから、比較的身近な話題を取り上げて述べてみたいと思います。今回は、試験と誤差の話です。

心理統計学や教育測定学でよく扱われるもののひとつに試験(テスト)があります。ほとんどの人がこれまでに何かしらの試験を受けたことがあるでしょう。試験を受ける立場からだと、試験の結果である得点は絶対的なもののように感じてしまいがちですが、試験を研究対象とする専門的な立場では、「試験は測定のために作られた道具であり、得られる得点には、測定という行為にともなって生じる誤差が含まれている」という見方をします。この誤差は、当該試験で測定したい特性以外の個人特性であったり、測定時の環境等の影響であったり、様々なものの混成物として捉えられます。

ここで、身近な測定である身長計による身長の測定と英語の試験による英語能力の測定を比較して、誤差についてもう少し具体的に考えてみましょう。まずは、身長計による測定です。

■身長計による身長の測定

  • 測定対象:背の高さ(直立した際のかかとから頭のてっぺんまでの長さ)
  • 測定装置:身長計(たいてい、踏み台となる台座、背中を付ける支柱、頭のてっぺんに下ろしてくる測定バーから成る)
  • 誤差要因:立ち方のくせ、髪型、測定時の指示など

身長のような物理的な量の測定はそこまで難しくはないと考えられます。身長計を使って背の高さを測ることに対して、違和感や疑念を抱く人はそこまで多くはないでしょう。それでも、測定時の指示や立ち方の違いが誤差となり、(あまり時間を置かないで測定したとしても)測定値はいくらかばらついてきます。

一方、英語の能力のような特性の測定はどうでしょうか。

■英語の試験による英語能力の測定

  • 測定対象:英語の能力
  • 測定装置:試験(たいてい、測定のために作った複数の設問から成る)
  • 誤差要因:緊張、周囲の音、設問の不備など

そもそも、長さと違い、英語の能力には直接観測することができないという特徴があります。そのため、このような測定では、まず測定対象を定義することが必要になります。その上でそれを測るための設問を用意するわけですが、その設問の集まりで十分かどうかの判断が簡単でないことは直感的に分かるのではないでしょうか。受験時の緊張や周囲の音による影響だけでなく、検討不足により、定義した測定対象の測定に設問が寄与していないこともあり得、誤差が大きくなりがちで測定値にもばらつきが生じやすそうです。

このように、試験による測定では、誤差として測定対象以外の要素が比較的大きく混入するのが一般的です。そこで、試験を作ったり、実施したりする側には、誤差が小さくなるように、測定対象を明確に定義し、可能な限りで多くの良質な設問を用意するなどして試験開発するとともに、誤差がどの程度含まれるのかを解答(回答)データから推測して、質の高い試験を提供するよう努力する姿勢が求められます。

今回の話から、試験における誤差というものにも注意を向けてもらえるようになったら嬉しいです。

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